「社会人の生き方」(暉峻淑子)①

「社会人」になるためにはどうすればよいか

「社会人の生き方」
(暉峻淑子)岩波新書

昨今の教育現場では
キャリア教育の重要性が
叫ばれています。
キャリア教育が必要となった背景として
文科省からは
次のような説明がなされています。
①社会環境の変化
・新規学卒者に対する求人状況の変化
・求職希望者と求人希望との
  不適合の拡大
・雇用システムの変化
②若者自身の資質等をめぐる課題
・勤労観・職業観の未熟さと確立の遅れ
・社会人・職業人としての
  基礎的資質・能力の発達の遅れ
・社会の一員としての経験不足と
  社会人としての意識の未発達傾向
若者が就職できないのは
若者が未熟だからだと
言っているようなものです。
小泉行政改革以降、
急速に浸透した「自己責任」論。
果たして本当に
若者に原因があるのでしょうか。

私がこれまで
ずっと感じていた疑問について、
明確な言葉で表現している本に
出会いました。
本書の著者・暉峻淑子は
こう述べています。
「多くの人が直面している就職難は、
 グローバル化した競争と、
 不況という日本の社会状況から
 構造的に発生している。
 いわば少ない椅子の
 椅子取りゲームを
 やっているようなものだ。」

就職難は社会の構造に欠陥があり、
その欠陥を修正しようとしない
政治に問題があるのだということを
述べるとともに、筆者はさらに
そこから派生する格差社会が、
社会人となれない人間を
つくり出していると、
第一章で指摘します。

そして社会人(社会とつながり、
相互に支え合い、
社会を変えていこうとする人間)
になるためにはどうすればよいか
提言したのが本書なのです。

第二章では
地域やNPOなどの活動がつくる
社会のつながりについて、
いくつかの実例をもとに
解説しています。

第三章では
労働が社会に果たす役割と
個人における意義について、
豊富な例を挙げて
詳解しています。

第四章では
格差社会の実態に触れ、
企業や社会、政治の責任を
追及するとともに、
これからの生き方・働き方が
提議されています。

そして第五章では
社会人をどう育てるか、
教育の果たす役割と
一人一人の在り方について
説明されています。

これから社会に
踏み出そうとしている
中学生・高校生に
ぜひ読んでほしいと思います。
内容的には難しいのですが、
現代を生きる指針となり得る一冊です。

※キャリア教育を声高に叫び、
 職を得られないのは
 キャリア・アップ
 できなかった者自身に
 責任があるかのように
 (つまり政権には責任がないと)
 思いこませるというのが
 「自己責任論」の
 正体なのではないかと
 私はときどき思います。

※参考までに章立てを。
 第一章 社会人になれない人びと
 第二章 身近な社会とのかかわり
 第三章 社会人にとって働くとは何か
 第四章 格差社会に生きること
 第五章 社会人をどう育むか

(2019.7.15)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA